黒姫


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「タケウチ ノア」と名乗る少女の体が、レオンの目の前で急にフラッと傾いた。

太陽の光で反射する少女の黒い髪が、その動きに合わせてフワッと舞う。



片手を掴んでいた為、レオンはグッと引き寄せ、その少女を腕の中に納めた。



顔を覗き込むと、黒の瞳は閉じたまぶたのせいで見えない。




………どうやら、気を失ってしまったようだ。
















「レオン様……その御方は…。」

ロゥファと共に、メイドのリーンがレオンの側に駆け寄った。


レオンの腕の中で意識を失っている黒髪の少女…希愛を見て、リーンは驚きを隠せていないようだ。


リーンにとって黒髪の人間は、本の中やおとぎ話にしか出てこない。

初めてみるその髪の色に、リーンが驚いてしまうのは無理ないだろう。








「名は…ノアと言うらしいな。」


希愛を揺らさないようにそっと横に抱き、部屋に備え付けられているベッドへ向かうレオン。

[タケウチ]とも言っていたが、その発音が独特である為、ノアの方が呼びやすい。








「………王、そのノア様が《黒姫》なんですね…?」




驚きで固まってしまっているリーンの隣で、水色の瞳をレオンへ向けながら、ロゥファが静かに問い掛ける。












「……………あぁ。」


そっとベッドへ希愛を下ろしながら、ロゥファからの問いに答える。


ふと、希愛の首に浮かぶ黒紫色の痣を見付けた。

何かに締め付けられたかのような跡…。


それが、希愛の白い肌にくっきりとうつっていた。



その痣を見て、レオンはギリッと歯を食い縛った。












「…………間に合わなかったか…。」





そう呟くレオンの声はあまりにも小さく……眠る希愛を見詰めながら、悔しそうに目を細めていた。

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