黒姫
コンコンッ……。
後ろの扉から、控えめに叩くノックの音が聞こえてきた。
「あっ、はい。」
悶々としていた希愛は、バッと後ろを振り向く。
「失礼します…。」と、トレーと持った女性が入ってきた。
(この声は、あのメイドさんだ…。)
扉から姿を見せるメイド服姿の女性は、あの時…希愛に服を渡してくれた声の持ち主だった。
ショートボブの茶色い髪が、少し活発そうな印象を与える。
歳は若く見え、希愛とそんなに変わらない位だった。
そんな女性が、希愛の姿を見て緑色の瞳を大きく見開く。
「お目覚めになったんですね!!昨日からずっと目を覚まさなかったので……でも、良かったぁ。」
トレーをテーブルの上に置いて、メイド姿の女性はパタパタと希愛の方へ駆け寄り、ホッとした表情で希愛を見る。
「私……昨日からずっと眠ってたんですかっ?」
メイドが発した言葉に驚きを隠せない希愛。
どれ位眠っていたのは気になっていたが、まさかそんなに眠っていたとは……。
「えぇ…。疲労によるものだから、すぐに目を覚ますだろうってお医者様は言っておりましたが…中々お目覚めにならなくて。」
話を続けるメイドの瞳には、うっすら涙が浮かんでいた。
「えっ……わゎっ!!ご心配おかけしましたっ!!!」
その瞳からもう少しで涙が零れそうになった時、希愛は慌てて頭を下げる。
「そんな!お顔を上げてください!!」
頭を下げる希愛にビックリしたメイドは、慌てた様子で希愛の肩に触れる。
ゆっくり顔を上げてみたら、メイドの瞳から涙は消えていた。
それにホッとした希愛だったが、グーッ…とお腹辺りが鳴った。
思わず、お腹を手で押さえるが遅かった。
ちょっと………いや、かなり恥ずかしい。
カァーッと顔が赤くなる希愛とは反対に、少しポカンとするメイド。
そして、クスッと笑った。
「お食事をお持ち致しますので、座ってお待ちいただけますか?」
口元に手を添え、いまだに笑いを堪えているメイドに促されながら、希愛は恥ずかしそうに顔を赤らめたままソファーへと向かった。