黒姫
「何も…ご存知ではないのですね……。」
スッと、悲しげに瞳を伏せるメイド。
その声もどこか悲しげだった。
けど、その表情は一瞬ですぐに微笑みを浮かべる。
「……とりかく、レオン様がご帰還なされたらご説明なさると思いますわ。
それまで黒姫さ……いえ、ノア様。この部屋でゆっくりおくつろぎ下さい。」
そう言ったメイドは、いまだに立ち尽くす希愛をソファーへと座らせた。
(黒姫……?やっぱり、このメイドさんは人違いをしている。)
そう思いながら、希愛はテーブルの上のカップを見つめる。
(夕方にはレオンさんが説明……って、一体何を説明するの?)
カップに注がれている紅茶を眺めながら、希愛は一人疑問に捕らわれる。
そして、ふと《パーメントール》と言う国の名前が頭をよぎった。
「あのっ……ここって、パーメントールって言う所なんですよね?」
顔をバッと上げ、隣に立っているメイドを見上げて聞いてみた。
「はい。ここは、レオン様が治めているパーメントールですよ。」
とても良い国です。
そんな風に言葉を紡ぐメイドに、希愛はガックリ項垂れた。
「(日本じゃないんだ…。)
えっと……地図とかお借りしても良いですか?」
せめて、日本からどれ位離れているのか知りたい。
そんな思いで地図を借りようと聞いてみたら、メイドは快く承諾してくれ、地図を取りに扉の外へ向かった。
そして、1分も経たない内に棒状に巻かれている紙を持ってきてくれた。
希愛はそれを受け取る。
紙と言うよりは、羊皮紙に近い材質だった。
そして、その羊皮紙をテーブルの上に広げてみると…そこに広がるのは、今までに見た事のない地図だった。
「…………えっ?」
思わず声が漏れた。
地図のどこを探しても、日本列島は無かった。
それどころか、アメリカ…アフリカ…中国…見慣れた大陸すらも一切無い。