黒姫
「パーメントールは、丁度ここにあります。」
そう言って、メイドは地図の白い土地を指さした。
名前が記されているのか、日本語でも英語でもない文字が書いていた。
その白い土地に隣接しているのは、赤や青、紫色の土地。
境界線を引くように、銀色の線が引かれていた。
そして、示された土地とは反対側に山のような図がある。
それを越えた先に、黒い土地があった。
勿論、その黒い土地の名前は読めない。
地図全体を見ると、黒い土地が丁度半分を占めていた。
「これ……日本…どこ?」
どこを探しても、日本は見付からなかった。
それでも、見慣れぬ地図の中を必死に探す希愛。
「…ニホン?そのような国は聞いた事ありませんわ。」
そんなメイドの言葉に、希愛はバッと顔を上げる。
メイドの表情は嘘をついている顔ではなく、本当に分からない様子だった。
(日本が……無い?ううん、そもそも私が知っている世界じゃないの?)
まだ夢を見ているのかと思い、再び頬っぺたをギュッとつねる希愛。
でも、痛みだけが頬っぺたに伝わるだけだった。
「ここパーメントールは、別名《白い砦》とも呼ばれております。」
いまだ現状を飲み込めない希愛に気付かないのか、メイドは言葉を繋げる。
「この黒い土地……敵国である《イースタリア》からの進行を食い止める為に、パーメントールが建設されたと言われております。」
そう言って、メイドが次に示したのは黒い土地。
「ご存知だとは思いますが、100年続いている《戦争》の中、一度もイースタリアからの進行を許した事はありませんわ。」
「……っ?!」
《戦争》と言う言葉に、希愛は思わず息を飲む。
「…ご安心下さい。ここ数年間、イースタリアからの攻撃は数える程しかありませんわ。」
驚きを隠せない希愛を安心させる為か、優しい口調で言い聞かせるように話すメイド。
(私が知っている限り、世界の中で小さな紛争があるって分かる。
でも…こんな戦争は聞いた時が無い。)
初めて耳にする言葉ばかりで、グルグルと混乱してきた。
そんな希愛に気付いたのか、メイドは「夕刻、改めてご説明いたしますわ。」と言い、冷えた紅茶を新しい物へと交換してくれた。