黒姫
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あれからどれ位の時間が経ったのだろう。
混乱する希愛を一人残し、メイドは食器を片付ける為に外へと出ていった。
それからは、窓の近くにある椅子に座ってずっと外の景色を眺めていた。
(黒姫に……パーメントール…イースタリア……戦争…。)
訳が分からないまま、その単語を頭で呟く。
そんな中、一つだけ分かった事は『ここは私のいた世界ではない』と言う事だけだった。
何度も頬っぺたをつねってみても、現実味のある痛みだけ。
少しヒリヒリする頬を擦りながら、希愛はため息を漏らす。
自分の知る世界でない事……そして、これからどうすればいいのかが分からず、心細くなっていた。
そんな中、急に目元が熱くなってきた。
視界がぼやけそうになった時、希愛は上を見上げて零れそうになる涙を堪えた。
(泣かないって…決めたじゃない…!!)
不安や心細さや振り払う為、口元をギュッと噛み締める。
希愛が幼い頃に誰かと約束した出来事。
相手の顔は全然思い出せないが、その約束をしてからは泣かないように決めていた。
(…約束……破っちゃダメだ!!)
そんな思いで、希愛は天井をキッと睨み付ける。
鼻がツーンとするが、黒の瞳から涙が零れる事は無かった。