黒姫
……コンコンッ。
外が夕暮れに染まり始めた頃、グルグルとした希愛の思考を遮るかのように、扉からノックの音が聞こえてきた。
椅子に座ったままそちらを振り向くと、先程のメイドが扉を開けていた。
そして、その扉の先に金色が見えた。
金色の正体は、レオンだとすぐに分かった。
ゆっくりとした足取りで、レオンはソファーへと向かっている。
それに続くように、見知らぬ男性と……トレーを持ったメイドが入ってきた。
「………体はどうだ?」
レオンはソファーへと向かったが、そこには座らず、立ったまま青い瞳を希愛に向ける。
「…大丈夫……です…。」
まだグルグルとした思考に捕らわれていた希愛は、消えそうな声で呟いた。
ギュッと制服のスカートを握り、視線を自分の足元へと移した。
それから静寂が訪れた。
「………。」
「………。」
レオンも希愛も、お互い無言だった。
「えーっと……とりあえず、こちらに座りませんか?リーンが美味しい紅茶を淹れてくれてますよ。」
静寂を打ち砕くかのように、柔らかな声が聞こえた。
ふと希愛が顔を上げてみると、微笑みを浮かべた水色の髪の男がこちらに手招きしている。
メイドもお茶を準備をしていた手を止め、優しい眼差しでこちらを見つめていた。
レオンに至っては、真面目な顔で希愛を見つめている。
「そこにいては体が冷えますよ。こっちに来て、一緒にお茶を飲みませんか?」
そう言う男の声は、希愛の学校にいた保健室の先生に雰囲気が似ていた。
三人の様々な表情に目をパチクリさせた希愛は、椅子から立ち上がり、ゆっくりとソファーへと歩いた。
「ほら……王。そんな顔していると、黒姫様が緊張しちゃいますよ!!」
おずおずとソファーへ座る希愛に続き、レオンもテーブルを挟んだ反対側へ座る。
いまだ真面目な表情で希愛を見るレオンに気付いたのか、水色の男は苦笑混じりに言った。
水色の男はソファーへと座らず、レオンの横に立っていた。
「……うるさいぞ、ロゥファ。」
そんな水色の男にピシャリと言うレオン。
水色の男は、ロゥファと言うらしい。
ロゥファは「笑わないと福が逃げますよー」とか「黒姫様に嫌われますよー」とか言ってる。