黒姫
全く話が分からない。
その言い伝えが、私と何の関係があるのか…。
「……意味が…分かりません。」
そう答える希愛の声は、困惑のあまり震えていた。
「そもそも…なぜ私を《黒姫》って決めつけるんですか?」
震える声を抑える為に唾を飲み込んだ希愛は、目の前のロゥファに尋ねた。
緊張のあまり、スカートを握っていた手に汗がかいてくる。
「………お前の黒い髪と瞳が、《黒姫》と言う証拠だ。
この世に、黒を持つ者は…いない。」
ロゥファが希愛の問いに答えようとした瞬間、レオンが静かに言った。
「髪と…瞳?」
レオンの言葉に、希愛は自分の黒い髪を見る。
日本人であれば殆んどの割合で、生まれながら黒い髪や黒い瞳は当たり前だ。
そんな事を思いながら、希愛は眉をひそめる。
「日本……私のいた国では、殆んどの人がこの色で生まれてきますよ。」
希愛がそう言った瞬間、メイドとロゥファが息を飲んだのが分かった。
そんなロゥファ達に目をくれず、レオンは再び希愛へと口を開く。
「………では、なぜお前は襲われたのだ?」
レオンが自分の首もとを指先でトントンと叩く。
それは、希愛の首の痣を示しているかのような動作だった。
「…それは…………分かりません。」
レオンの動作を見た希愛は更に眉をひそめ、首を横に振る。
「…お前はあの時、黒いフードの人物から逃げていたな?」
あの時と言うのは、湖にいた時の事だろう。
希愛はコクンと首を縦に振った。
それを確認したレオンはスッと目を細め、声色を低く…どこか冷たい感じで言った。
「……その黒フードは、大方イースタリアの者だろう。
首に付いているその痣の色は、イースタリアの連中が付ける独特のものだ。」
そう聞いた瞬間、希愛は包帯が巻かれている首もとへ手を添える。
痛みはもう無いが、制服へ着替えた際、鏡にうつった痣の形や色が頭によみがえる。
「…っ……でも…、何で私なんですか?」
襲われる原因が全く浮かばない。
少し焦りを含んだ声でレオンに聞く希愛。