黒姫







全く話が分からない。

その言い伝えが、私と何の関係があるのか…。






「……意味が…分かりません。」






そう答える希愛の声は、困惑のあまり震えていた。





「そもそも…なぜ私を《黒姫》って決めつけるんですか?」




震える声を抑える為に唾を飲み込んだ希愛は、目の前のロゥファに尋ねた。

緊張のあまり、スカートを握っていた手に汗がかいてくる。
































「………お前の黒い髪と瞳が、《黒姫》と言う証拠だ。

この世に、黒を持つ者は…いない。」


ロゥファが希愛の問いに答えようとした瞬間、レオンが静かに言った。








「髪と…瞳?」



レオンの言葉に、希愛は自分の黒い髪を見る。



日本人であれば殆んどの割合で、生まれながら黒い髪や黒い瞳は当たり前だ。



そんな事を思いながら、希愛は眉をひそめる。


「日本……私のいた国では、殆んどの人がこの色で生まれてきますよ。」


希愛がそう言った瞬間、メイドとロゥファが息を飲んだのが分かった。


そんなロゥファ達に目をくれず、レオンは再び希愛へと口を開く。










「………では、なぜお前は襲われたのだ?」



レオンが自分の首もとを指先でトントンと叩く。

それは、希愛の首の痣を示しているかのような動作だった。














「…それは…………分かりません。」


レオンの動作を見た希愛は更に眉をひそめ、首を横に振る。




「…お前はあの時、黒いフードの人物から逃げていたな?」








あの時と言うのは、湖にいた時の事だろう。


希愛はコクンと首を縦に振った。



それを確認したレオンはスッと目を細め、声色を低く…どこか冷たい感じで言った。






「……その黒フードは、大方イースタリアの者だろう。

首に付いているその痣の色は、イースタリアの連中が付ける独特のものだ。」




そう聞いた瞬間、希愛は包帯が巻かれている首もとへ手を添える。


痛みはもう無いが、制服へ着替えた際、鏡にうつった痣の形や色が頭によみがえる。








「…っ……でも…、何で私なんですか?」


襲われる原因が全く浮かばない。


少し焦りを含んだ声でレオンに聞く希愛。


< 48 / 63 >

この作品をシェア

pagetop