黒姫
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あれからあっという間だった。


7分で反省文を完成させて、職員室でネズミからの小言から無事に逃げて…和音と校門で別れてからダッシュでスーパーへ行って。


おかげで、目当ての牛乳と卵はゲットしたんだけど……帰る頃には凄く疲れてた。











「ただいまー!!」



昭和建ての古いアパートの一室。電気は点いてなくて、真っ暗な部屋に向かって言った。


返ってくるのは、玄関の近くにある冷蔵庫の”ブーン…”と鳴る稼働音だけ。



それはいつもの事だったから、気にしない。

電気を点けた後、冷蔵庫の前に買ってきた戦利品を置いて、私は奥の居間へと足を運んだ。










「ただいまっ、父さん母さん。」


カバンを床に置き、一人用のテーブルの上に置かれた写真を持ち上げ、それに映ってる男女に向かってニッと笑う。


眼鏡越しから優しい眼差しでこっちを見つめる男性。

その男性に寄り添う女性も、微笑みを浮かべてこっちを見つめてくれている。





この二人こそ、私の父さんと母さん。

私がうんと小さい時、行方不明になってしまったらしい。
数年前に死亡扱いとなり、お墓が出来たっておばあちゃんから聞いた。

私を引き取り、育ててくれたおばあちゃんも去年亡くなってしまったけど…。









「今日はね、すっごくムカついたんだよ!!ネズミ…あっ、数学の先生ね。その先生の授業で私寝ちゃって……反省文書かされてさー。危うく特売間に合わなくなるとこだったんだよ!!」


鼻息が荒くなってる状態で、写真の父さんと母さんに今日1日起きた事を話す。
これが私の日課となっている。






「牛乳と卵は無事に買えたから良いんだけど…。」


ため息混じりに呟く。
本当にダッシュ頑張ったと思う。
髪なんてぐちゃぐちゃだよ。





コト…と、写真をテーブルに戻した瞬間……








「……あぁっ!!明日の朝のパン買うの忘れてたっ!!」









父さんと母さんに報告してる最中に、買い忘れてしまった物に気付いて一人慌てた。

未だ7時だし…制服着たままだけど。コンビニ行って買ってこよう。


そう決めて両親に「ちょっと行ってきます!」って伝えて、カバンを肩にひっかけて私は家を飛び出した。

そんな私を、いつものように無言で見送ってくれていた。


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