黒姫
「さて……積もる話はいっぱいありますが、お腹空いてきましたねー。」
ロゥファが急に立ち上がったかと思えば、自分のお腹に手を当て、あははーと苦笑している。
「ノア様、ここの料理は凄く美味しいんですよー。
今日はこれ位にしといて、夕食をお召し上がりになりませんか?」
さっきまでのピリピリとした雰囲気をぶち壊すかのように、ロゥファは口調を明るくして言う。
話が反れてしまった事で、希愛は少しため息が出そうになった。
(分からない事が多すぎる…。)
声の主の正体は、いずれ分かるだろう。
だが、黒姫の事や力の事…他にも分からない事が沢山あった。
聞きたい事がいっぱいある。
けど、この険悪な雰囲気が続くのかと思うと気分が落ち込む。
そんな中、ロゥファの明るい声がこの雰囲気を破ってくれたのは救いだったのかもしれない。
「今、他のメイドに頼んで持ってきてもらいます。
…あぁ、リーンはそのままノア様と一緒にいてくださいね。」
ロゥファの言葉にメイド…リーンが外へ行こうとしたが、次に紡がれた内容に「かしこまりました。」と頷き、再び希愛の近くに戻ってきた。
「あの…私が取りに行きますから。」
これ以上迷惑をかけたくないと思い、ソファーから立ち上がった希愛だったが、フッと目の前に黒い影が出てきた。
見上げてみると、レオンが立ち上がっていた。
そして、希愛の頭の上に手を乗せたかと思えば……グッと力が加わる。
唐突に頭上から加わった力には勝てず、希愛はソファーへ再び座るハメになった。
「この部屋からはまだ出るな。
……お前の持つその黒は、周囲を混乱させる。」
希愛が座った事を確認したレオンは、静かにそう言って手を離した。
そして、希愛に背を向けたかと思えばそのまま外へと出ていってしまった。
「あー……もー……。」
既に扉の向こうに消えたレオンに向かって、ロゥファは長々とため息を吐いた。
希愛を見れば、ポカンとした表情で扉を見つめている。
きっと、レオンの言葉を理解できていないのだろう。