黒姫
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長く続く廊下を、レオンは一人無言で歩く。
周りの壁は白いコンクリートのような材質をしていて、壁にかかっている蝋燭の火が辺りを明るく照らしていた。
レオンの歩く動きに合わせ、身にまとっている白いマントが揺れる。
そのマントから覗くのは、漆黒の剣。
レオンの腰元にあるその剣は、ただ静かに蝋燭の光を反射していた。
廊下の途中、鎧を身に纏った兵士がいた。
手には銀色の槍を持っている。
その兵士の前を通り過ぎようとした時、レオンに気付いた兵士はバッと敬礼する。
それを横目で見つつも、レオンは足を止めなかった。
そして、執務室の前へと着いた。
扉を少し荒々しく開け、執務室の中へと入る。
中は広く、棚には本や羊皮紙の束がいっぱい詰まっていた。
机の上にも、羊皮紙が山のように積み上がっている。
そのまま、机の前ある椅子に座ったレオンは長いため息を吐く。
すると、パタパタと言う足音が聞こえてきたかと思えば、ノック無しに執務室の扉が開かれた。
そちらに目をやれば、水色の髪が少し乱れているロゥファがいた。
先程までいた部屋から走ってきたためか、肩で息をしているように見える。
「……おーう…?」
後ろ手で扉を閉め、地を這うような声をだしながらレオンへと近付くロゥファ。
表情はいつもの柔らかい笑みであったが、目は笑っていない。
そんなロゥファから目を離した後、レオンは目の前にある羊皮紙の山から一枚取り出した。
それをロゥファへと放り投げるように渡した。
「これは……。」
ヒラヒラと舞う紙を慌てる事なく受け取る。
それに目を通せば、先程まで沸き上がっていた僅かな怒りも急激に治まった。
「……《草(スパイ)》からの報告書だ。」
「…イースタリアに放っている者達ですね?」
「ああ。」
敵国であるイースタリアに、《草》と呼ばれるスパイを潜伏させている。
敵国の情勢を知るためには、欠かせない存在。
パーメントールだけではなく、当然他の国々もその存在はあるだろう。
「……イースタリアも動きましたか…。
想定内の事でしたが…この報告書を見ると、《黒姫様》の存在がどれ位大きいのかが分かりますね。」