黒姫
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執務室でレオンとロゥファが話をしていた頃、希愛はメイドのリーンから《黒姫》に関して色々聞いていた。
「《黒姫》と言うのは、先程レオン様とロゥファ様が仰った通り……生まれながらにして漆黒を身にまとい、特殊な能力を持った方の事です。」
「言い伝え…でしたよね?
でも、何故《黒姫》が私なのかが全然分からなくて…。
能力と言われても、公園であった出来事以外は全く身に覚えが無いんです。
……やっぱり、何かの間違いじゃないですか?」
いまだに困惑の色を隠せない希愛。
殺されかけた上、知らない世界に連れて来られたかと思えば…今度は文献に残されていた尊き存在だと言われる。
知らない世界だと認識するのでさえいっぱいいっぱいなのに…。
そんな希愛を横目で見ながらも、リーンは新しくお茶を淹れ直すために作業を始めた。
「そうですか…。でも、あのお二方が仰るのであれば間違いは無いと思いますわ。」
カチャカチャと、静かながらも手早くお茶の準備をするリーン。
そんな彼女の表情は、確信に満ちていた。
「レオン様はこの国の王であり、騎士団の長をも勤めております。
ロゥファ様は、レオン様の側近であり…魔導士団の長を勤めております。
そんなお二方が、ノア様から何らかの気配を感じ取ったのでしょうね…。」
「………気配…ですか?」
「…ええ。お二方は、数え切れない程戦場へと身を投しておられます。
戦場慣れ、と言いますか。
敵を見ればどれ位強いのか……。
気配を見極め、一瞬にしてその判別がつくそうです。
恐らく、ノア様がお持ちの気配を、お二方がお気付きになったのでしょうね。」
私にはそう言うのは分かりませんが…、と苦笑するリーン。
いつの間にか冷えた紅茶は下げられ、希愛の前には湯気が僅かに立ち上る紅茶が置かれた。