黒姫
(気配って言われても…。私、普通の高校生なんだけどなぁ。)
リーンの説明を聞きながら、希愛は心の中でそっとため息をついた。
中学生の頃に剣道をやっていたが、高校に入ってからは帰宅部であった希愛。
リーンの説明にあった気配と言う言葉は何となく分かる。
剣道の試合の際、強い対戦相手であれば…その雰囲気が独特なのだ。
ピリッとした雰囲気と言うか、少し周りの空気が冷たくなると言うか…。
(それと似た感じなのかな…?)
んー…と、唸りながら紅茶を一口飲む。
程よい甘みと紅茶の香りが口の中に染み渡って、少し体の力が抜けた。
「能力に関しては、また改めてレオン様やロゥファ様からお話があると思いますわ。
………あ、漆黒に関しては未だちゃんとお話していませんでしたね。」
思い出したようにポンッ、と自分の手を叩くリーン。
希愛は紅茶の二口目を頂きながら、そっとリーンに視線を向ける。
「ノア様の髪と瞳は漆黒の色をしておりますが……この世界中を探しても、そのような色をお持ちになられている方は、ノア様以外…今は誰一人おりません。」
「…本当に、誰一人もいないんですか?」
「ええ。私も初めてお目にかかりましたわ!!
漆黒の髪と瞳は、伝説の存在が持つ色とされておりますので……ノア様をお目にかけた時には、本当に驚きましたわっ!!」
そう言うリーンは、目がキラキラと輝いていたように見えた。
それに加え、リーンが持つティーポットが、まるで興奮度を表すかのように上下へ激しく揺れている。
…ティーポットの先端から、紅茶が出てこないかが心配になる位だ。
「そ、そうだったんですね…。」
「はい!!……って、話が逸れそうになりましたね。申し訳ありません。
文献の続きによれば、漆黒の色を持つ一族はいたみたいです。
ですが、その一族の中でも、特に能力が高い者を《黒姫》と呼ぶそうです。」
「一族がいた…んですか?」
(もしかしたら、私のような日本人がいるのかもしれない。)
リーンの言葉の中で『一族がいる』ではなく、『一族がいた』と言う過去形に少し引っ掛かったが、もしかしたら自分と同じ境遇に遇った人達がいるのかもしれない。
もしかしたら…帰れる方法などが分かるかもしれない。
そんな期待が膨らんだが、リーンの次の言葉で一気に打ち砕かれた。