黒姫

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その後、扉の外から届けられた料理を食べた希愛だったが、その間もずっと《黒姫》の事や《漆黒の一族》…《黒狩り》の事で頭がいっぱいだった。


ロゥファから美味しいと言われていた料理も、今はあんまり美味しいとは感じられなかった。













食べ終わった後、希愛は気分を切り替えるために、この世界について話を聞こうと思っていた。

だが、「もう遅いですので、
また明日にしましょう。」と、先伸ばしにされてしまった。


窓の外を見上げると、満月が真上に上がっていた。

この部屋には時計が無いため時間は分からないが、月が高いと言うのは夜もふけてきた頃なのだろう。






明日、改めて説明してくれる事を約束してくれたリーンは、「この部屋から出ないでくださいね。」と希愛に念押し、部屋から出ていった。
























「………これからどうなっちゃうんだろ…。」


リーンが退室した後、希愛は窓際にある椅子に体育座りし、自分の両足をギュッと抱いた。







窓の外に広がる夜景の中には街灯等は無く、辺りは静まりかえっていた。

自分のいた場所では、この時間でも民家の灯りや道路に街灯があり、大通りには人も車も通っていた。

こんなにも静かなのは、初めての事だった。









「一昨日から…満月なんだね。」


ふと上を見上げる。

そこにあったのは、一昨日から変わらない大きな満月。

満月から二日経つのであれば、月は欠けていないとおかしい。


けど…どんなに目を凝らしても、満月の縁は綺麗な弧を描いていた。










改めて、自分のいた世界とは違う事を認識させられ、急に孤独感が沸き上がってきた。






「和音……おばあちゃん…父さん、母さん…。」






まるで、迷子になったような気分になった。

知らない場所で、知らない人に囲まれて…。






そんな事を思っていたら、少しだけ笑えてきた。



「この歳になっても迷子…かぁ。

でも、迷子になってもいつかは…見付かるよね…。」









(なるようになる!!)



そう思った時には、寂しい気持ちが少し和らいだ。



そして、希愛はそのまま窓の外をじっと見つめていた。


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