黒姫
急に視界が真っ白になって、体が引っ張られた感じがした。
そっと目を開けてみると、一番に見えたのは…見慣れない天井だった。
「……夢…かぁ。」
灰色の天井をぼーっと眺めながら、少し掠れた声で呟く。
あの夢は、高校入学式の時の出来事だった。
その日は綺麗に桜が咲いてくれてて…。
ヒラヒラ舞い落ちる桜の花びらの下、私と和音は高校まで走って向かったんだよね。
んで、到着する頃には二人共息が上がって…………お互い大笑いしたんだっけ。
昨日のように思い出せるあの日の出来事。
(和音………。)
そのままゴロッと転がり、うつ伏せの状態で枕を抱く。
頭の中に浮かんだのは、夢で見た笑顔の和音の姿だった。
『その顔っ。希愛が笑うと何か元気出てくるんだよねー。』
また言ってくれた気がした。
私が笑えば、和音も笑ってくれる。
離れていても、私が笑えば和音も笑ってくれるのかな?
そんな事を思いながら、枕にギュッーと顔を埋めていると、ふと疑問が頭に浮かんだ。
(私……いつベッドへ来たの?)
確か、昨日の夜は窓際にずっといたはず。
あの後、ベッドへ行った覚えはない。…ってか、いつ眠ったのかも覚えてないよ。
ガバッと起き上がり、自分の服を見てみる。
そこには、シワシワになった制服があった。
「無意識の内にベッドへ来ちゃったのかな…?」
本当に覚えていない。
きっと、着替えないままフラフラとベッドへダイブしたんだ。
そう決めこんだけど、一つだけ足りない物があって再び首を傾げる事になってしまった。
「………あれ?ネクタイが無い…。」
胸元にあった赤いネクタイが無かった。
キョロキョロと探してみると、ベッドの脇の机にそれは置かれていた。
「んー………?」
綺麗に四つに畳まれているネクタイ。
制服を着たままベッドへ入ったのならば、ネクタイは付けっぱなしのはずだ。
なのに、それは外れて……しかも綺麗に畳まれている。
ヤバい。本当に記憶無いよ…。
リーンが部屋に入ってくるまで、私は寝るまでの出来事を思い出そうと一人唸っていた。