黒姫
公園の入り口に設置されている自販機から温かい紅茶を買い、そのまま公園へと入る。
こんな時間だから、流石に遊ぶ子供たちはいない。
今は私一人だけだった。
入り口からそう遠くないベンチに腰掛け、ふぅっ…と息を吐く。
右手に持った紅茶が温かくて、何だか安心する。
そのまま上を見上げてみれば、今夜は見事な満月だった。
「満月だー…。雲無いから余計に明るいんだね。」
街灯のせいで見上げるまで満月に気付かなかった。
公園の明かりは満月の光だけ。
紅茶を開けようと夜空から視線を離した時、チラッと奥に黒い影が見えた。
「え……」
何だろう…猫?
満月の光でも流石に夜は夜。
よく見ようとして、目を凝らしてみる。
サァー……
夜風が私の髪で遊んでいる。
黒い”何か”を見る為に無意識に立ったせいで、スカートの裾もヒラヒラ動いている。
サァー……
また同じ風が吹いた。
黒い”何か”がこちらに向かって歩いている。
人?…っぽいシルエット。
サァー…………ザァー……
急に風が強くなって、思わず腕で顔を隠す。
それがいけなかった。