パステルカラーの恋模様 2
ヤ・バ・イ。

この人の存在をすっかり忘れてた!



お父さん!



「ケーキ買ってき……」

ご機嫌で居間に入ってきたお父さんが、漫画みたいにバタっと鞄を床に落とした。



「………」

「………お父さん、おかえり」


しばらく沈黙。
お父さんは、わなわなと啓ちゃんを指差した。


「男…?!」


あちゃあ…と頭を抱えるあたしとは裏腹に、啓ちゃんは笑ってお辞儀し、「お邪魔しています」と言った。


うっわ~、
すっごい見てる!すっごい見てる!


ありえないくらいジロジロ嘗め回すように啓ちゃんを観察している。

まるで家に迷い込んだ珍しい動物でも見るかのように…。



啓ちゃんは、視線をちくちくと感じつつ「あ、あの…?」と呟いた。

ネクタイをゆるめながら、こほんと咳払いしたお父さんは、慎重な声で聞いた。


「誰だね、君は。まさか……」


ぎく。
私に目線が飛んできて、ぎょっとした。

啓ちゃんは『あ!』って顔をして立ち上がる。



あら、啓ちゃんの方がちょっと高い……?

って、そうじゃなくて、やばいって!



「僕、美園さんとお付き合いさせていただいてます。柏木啓太です!お父さん!」


“お父さん!”

この言葉にお父さんの額に、怒りマークが。



「君にお父さんと言われる筋合いはない!!」


えー!!

漫画ー?!


(でもちょっと予想したー!!)



「お父さん!!」


お母さんと私が同時に言う。


「……と、とりあえずお父さん、着替えてらして」


お母さんがそう促すと、お父さんは不機嫌に「…ふん!」とだけ言って、


またちくちくと啓ちゃんにビームをおくりながら、くるりと向きを変え、階段を上っていった。

< 58 / 98 >

この作品をシェア

pagetop