転校生は憧れの人
「そりゃあ、どうも」
それだけ言って、憐くんは私から目を逸らした。
「なぁ、なずな」
振り向くとそこには、何故だかしたり顔の吉野くん。
彼は憐くんの肩に手を置き私の顔をじっくりと見ながら口を開いた。
「こいつ、めっちゃ上手だったと思わねぇ?」
「う、うん」
……確かに。
台詞が少ないとは言え、急遽前日に決まったとは思えないほどの演技で。
憐くんの王子様は、不思議なくらい完璧だった。
「ふっふっふ。実はな? 昨日憐が、引き受けたからには責任がある、自分が劇を壊すわけにはいかないから練習付き合えーって言うから、俺ん家で遅くまで特訓してたんだ。ま、言われなくてもそうするつもりだったけど」
……え!?
「そう、だったんだ……」
知らなかった。
あのあと2人で練習したなんて。クラスのために、見えないところで努力してくれてたなんて。
……だから、あんな風に演じられたんだ。
「あーあと、一ノ瀬には迷惑かけたくないから、だってさ。な?」
「え?」
吉野くんは、ニヤリと何か企んだような笑みを浮かべながら憐くんに問い掛けた。