転校生は憧れの人




『なずなちゃん、ちょっといい?』



昨日、演劇のステージが終わたあと。


更衣室から出たところで突然現れた弥生ちゃん。


梓ちゃんに断りを入れた私は、促されるまま1人で着いて行ったんだ。



急にどうしたんだろう。何かあったのかな。


悶々と考えてるうちに、気づけば人通りの少ない廊下の隅にまで来ていた。


緊張でいっぱいいっぱいだったせいか、そこまでの記憶はかなり曖昧だけど。


もうどうしていいかわからなくて。頭が回らなくて。心臓が爆発しそうで。


とにかく、憐くんに対する自分の想いを正直に打ち明けなきゃ。


そう思った私は、大きく息を吸い──。



『弥生ちゃん! あの、私、弥生ちゃんに言わなきゃいけないことがあって……』


『え?』


『私も憐くんが好きなの! 大好きなの……!』



勢いよく発した言葉。実際にはそれ程大きくはなかったのだけれど、それは確かに廊下に響いた。


沈黙。


私は目を伏せたまま上げることができない。



『……何それ』



そんな空気を打ち破ったのは、弥生ちゃんの声だった。




< 185 / 309 >

この作品をシェア

pagetop