転校生は憧れの人



たまたまじゃ、ない?



「どういうこと?」



自然と出された言葉。


じっと黙って、なずなの返答を待つ。



「あのね。梓ちゃんが水筒を取りに行ってからちょっとしてくらいに、滝川くんに聞かれたの。梓ちゃん、どこに行ったんだって」


「うん」


「それで、更衣室に行ったよって教えたら……」



……教えたら?


あたしは彼女の表情を、そっと見守る。



「急に血相を変えて、飛び出して行っちゃったの」


「……あいつが?」


「うん。きっと滝川くん、梓ちゃんのことが心配だったんだよ」



嘘。


何それ、聞いてない。


あたしには、全くそんな風に見せなかったくせに。


たまたま通りかかったって、言ったくせに。


……そんなの、ズルいよ。バカ。






< 240 / 309 >

この作品をシェア

pagetop