転校生は憧れの人
「落合くん、もう怪我は大丈夫なの?」
文化祭前の足の怪我。
あの頃は松葉杖をついていたけど、今は自らの足で立っている。
「うん、もうすっかり治っちゃったよ。だから心配しないで」
「良かった……」
案の定私の願いはその通りだったみたいで、ホッと胸を撫で下ろした。
「本当に優しいね、一ノ瀬さんって」
「そ、そんなこと――」
「“ない”とは言わせないよ?」
ニコリ上がる口角と、優しい瞳。
柔らかな表情とは裏腹に、力強い物言いで私の言葉は遮られた。
その時、授業開始5分前を告げるチャイムが響いた。
「そろそろ戻らないと」
時計を確認してから、落合くんは言う。
そしてそのまま、“ありがとう”と囁くように言い、彼は私の頭をポンポンと二度軽く叩いて席に戻って行った。