転校生は憧れの人
それから1分くらい時は流れた。
鼓動は高鳴って止まず、全身は溶けてしまいそうなほど熱い。
……だけど。
「あの~、憐くん? 離れないと時間が……」
出発まであと約30分。
そろそろ行かないと遅れてしまう。……というのに、憐くんはそんなのお構いなしで。
「いやだね」
なんて、さらに力を強める。
れ、憐くん!?
嬉しいけど、でも……。
「俺だって、アンタと離れるの結構嫌なんだから」
「へっ……」
「全部一ノ瀬が悪い」
そう言ってすぐだった。
憐くんは、「……なにやってんだろ」とため息混じりに、私の身体を解放した。
前を見ると、そこにはほんのり頬を赤く染めながら俯く彼の姿があって。
「可愛い……」
珍しい表情に、ついそんな言葉が口から滑り出てしまう。
「一ノ瀬」
すると、彼から聞こえたのはいつもより数倍低いトーンの声で。
あれ、怒ってる……?
「それ、言うの禁止ね」
「了解っ」
楽しそうに答えると、彼はまたふてくされた顔をしてみせた。
何か私、憐くんにたくさん禁止されてることがある気がする……。