転校生は憧れの人



「ちょっと耳かして」



にっこりと目を細める彼は、一ノ瀬の耳に手を当て何やら秘密の会話を始めたようだった。


解るのは、慌てたり、驚いたり、赤く色付いたり、笑ったり、瞬時に変わる表情だけ。


……へぇ、俺には聞かれちゃまずい話ってこと。


それから30秒程。


落合は、漸く一ノ瀬から離れたのだ。



「ねぇ、一ノ瀬」


「ななな、何!?」



キョロキョロ泳ぐ目に、裏返る高い声。


……あの、まだ何も言ってないんすけど。


よっぽどあいつに言われた言葉に動揺してるってこと?


心を蝕むのはイライラとした感情で。


あー、俺ってこんな性格だったっけ。


なんて、自己嫌悪にとらわれる。





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