恋のレシピの作り方
「あ、あの、私は大丈夫です! すみません、ご迷惑をおかけして―――」


「Abruti」
<馬鹿>



 一条は忙しなく身支度しながら奈央を睨んだ。



「病人は厨房への立ち入りは一切禁止だ、お前もシェフならそのくらいわかれ」


「す、すみません」


「お前の服はルームサービスでクリーニング中だ、何かあったら電話しろ、部屋から出歩くんじゃないぞ」


「……はい」


「じゃあな」



 そう言うと、一条は玄関に向けた足を返して、奈央に近寄ると頬に軽くキスをした。

(挨拶の……キス……なんだよね?)

 奈央が反応しないで布団をしわしわになるまで握りしめていると、一条が口を開いた。

「なんだ?」

「……あの、私、本当に昨日一条さんと何もなかったんですよね? 今のだって、挨拶のキスなんですよね?」

「……さぁな」

 ニヤリと笑って一条はいつもの「挨拶」のキスをするとゆっくり離れていった。

(一条さんって人が益々わからなくなってきた……)


 バタンというドアが閉まる音を確認すると、奈央は布団をガバリどかぶり直した。
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