恋のレシピの作り方
「あら……今夜は機嫌悪いのね」



 外の夜景から、灯りがこぼれて入り込んでいる。ぼんやりと人影が浮かぶと、麗華が妖艶な笑みを浮かべてドアの前に立っていた。

「そういえば、この前スペアのカードキー、返しそびれちゃったと思って」

 そういえば、前に手が離せなくて麗華に使いを頼んだことがあった。その時に、安易にキーを渡してしまったことを一条は後悔した。


「何の用だ?」


「会いに来た。だけじゃ理由にならない?」


 麗華はおもむろに傍に歩よると、口に運ぼうとしていた一条のカットグラスを取り上げた。



「こんな飲み方して、あなたらしくないわね」


「別にいいだろ」


 その時、一条の脳裏に先程の光景が蘇った―――。

 ホテルのロビーで打ち合わせが丁度終わった時、ホテルのエントランスの先で、偶然にも羽村と奈央が親しげに何か話しているのが目に入った。そして、羽村は奈央をタクシーに乗せ、二人でどこかへ消えてしまった。

 以前の自分なら気にも留めず、鼻を鳴らしていたに違いない、けれど、あの笑顔が別の男に向けられたものと思うと無性に腹が立って、そのまま踵を返してしまった。

 ―――あいつを見ていると、俺は、俺じゃなくなる。

 とその時、下半身になにか蠢くものを感じて、一条は我に返った。見ると、いつの間にか麗華が一条の横に座り込み、妖艶に微笑みながら指先を太腿に這わせていた。
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