恋のレシピの作り方
「離せ、俺が愛せる女は一人だ」


「司……まさか、あの子のこと……本気なの?」

 既に冷静さを失った麗華の言葉が、まるで糾弾するかのように、背中に叩きつけられた。が、それでも一条は振り向くわけには行かなかった。
 
 
 ―――振り向けば、きっと麗華は泣いている。


「俺はもう、後戻りできない。あいつの、あの目を見た日から―――」


「嫌ッ!!」


 麗華の腕に力が込められる。

 昔、パリに住んでいた頃、確かに麗華とは概念的には恋人だった時もあった。
けれど、本当に麗華のことを愛していたのか、と聞かれると肯定できない自分がいる。けれど、それはけして不誠実だったというわけでもなかった。


 一条は麗華の絡んだ腕をゆっくり解くと、すすり泣く声を聞きながら部屋を出て行った―――。
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