恋のレシピの作り方
第二十四章 ヴァルキュリアの恋想
―――つい先日のことだった。
『俺、来月転勤になったんだ』
忘れた頃に、桐野からそんな電話がかかってきた。
「え……? 転勤? どこに?」
『大阪の本社だよ』
「そうなんだ、桐野君も……頑張ってね」
あまりにも突然の報告に、戸惑いがあったとは言え、奈央はもう少し愛想のある言葉がなかったのだろうかと、後で後悔した。
『あのさ……』
桐野が間を置いて言葉を切り出すと、やはり適当な言葉が見つからないようでしばらく押し黙っていたが、ようやく息を呑んで口を開いた。
『やっぱり、奈央は……この間言ってた上司の事、好きなんだろ?』
「え……?」
突然何を言い出すのだろうと、奈央は受話器を手にしながら目を丸くした。
『自分で気づいいてないのか? 仕事もいいけど、奈央には幸せになって欲しいんだ』
「うん……ありがとう」
―――それなら、どうやったら幸せになれるのか教えて欲しい。
思わず可愛げのないことを言いそうになって、奈央は言葉を呑み込んだ。一条に近づきたくても近づけない壁に、内心焦りを感じていたのかもしれない。けれど、自分に幸せになって欲しいと願ってくれている人がいると思うと、勇気づけられるような気がした。
(もう、桐野君と会うこともないかな……)
奈央の中で桐野という存在が、過去の思い出に変わっていくのを感じながら受話器をそっと置いた。
『俺、来月転勤になったんだ』
忘れた頃に、桐野からそんな電話がかかってきた。
「え……? 転勤? どこに?」
『大阪の本社だよ』
「そうなんだ、桐野君も……頑張ってね」
あまりにも突然の報告に、戸惑いがあったとは言え、奈央はもう少し愛想のある言葉がなかったのだろうかと、後で後悔した。
『あのさ……』
桐野が間を置いて言葉を切り出すと、やはり適当な言葉が見つからないようでしばらく押し黙っていたが、ようやく息を呑んで口を開いた。
『やっぱり、奈央は……この間言ってた上司の事、好きなんだろ?』
「え……?」
突然何を言い出すのだろうと、奈央は受話器を手にしながら目を丸くした。
『自分で気づいいてないのか? 仕事もいいけど、奈央には幸せになって欲しいんだ』
「うん……ありがとう」
―――それなら、どうやったら幸せになれるのか教えて欲しい。
思わず可愛げのないことを言いそうになって、奈央は言葉を呑み込んだ。一条に近づきたくても近づけない壁に、内心焦りを感じていたのかもしれない。けれど、自分に幸せになって欲しいと願ってくれている人がいると思うと、勇気づけられるような気がした。
(もう、桐野君と会うこともないかな……)
奈央の中で桐野という存在が、過去の思い出に変わっていくのを感じながら受話器をそっと置いた。