恋のレシピの作り方
「春日さん?」

「え……? あ、すみません、ぼーっとしてしまって」

 羽村の声にはっと我に返ると、奈央は無理になんでもない、と知ら示すようにうっすら笑ってみせた。

「司のことが心配なんですね……?」

 ―――この人の前では何も隠し事なんてできない。

 羽村の洞察力に、奈央は抵抗することもなく、ただ短く頷いた。


(それに、あの生田君が持ってた名刺も気になる……)


 そんな風に考え事をしていると、一条が鬱陶しそうにシェフスカーフを緩めとり、厨房を出ていこうとしていた。

「またどこかに行くんですか?」

 羽村が少し皮肉めいて言うと、一条が振り向いて言った。


「どうもムシャクシャして仕事に集中できない、いつもの場所にいるから何かあったら電話しろ」

 

「はい、ゆっくり頭を冷やしてきてくださいね」

「ふん……」

 羽村がにっこり笑顔を向けると、一条は鼻を鳴らして出て行った。



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