恋のレシピの作り方
「先に世の中に出したもん勝ちなんだよ、俺がたまたま遅れをとっただけだ」

 ポツリと独り言のように一条が呟いた。その呟きがどことなく自嘲めいていて、やるせなさに拍車をかける。

「そんな……」


 きっと考案中に誰かに盗作され、ヴェルテに流れてしまったのだろう。
 奈央はこれ以上、一条の顔を見ていることができずに目を逸したその時だった。


 ビリッ―――。

(え……?)

 突然、紙が破ける鋭い音がして、咄嗟に奈央は一条に目線を戻した。



「い、一条さん!? 何を―――」



 見ると一条は、手にしていたレシピを全て細かく破いて、屋上からばらまいていた。その手元から風が全てを奪っていく―――。

< 380 / 457 >

この作品をシェア

pagetop