恋のレシピの作り方
 洗練されたスポーツタイプの車は、なんとなく一条に似合っていた。


 ゴミ一つ落ちていない車内は一条の意外な几帳面な性格が窺い知れる。そして、鼻で深呼吸するとほんのり煙草混じりの一条の香りがした。

 ローザンの駐車場を離れ、一条が運転する車は深夜の都心を、なめらかに滑っていく。スピーカーからは耳をすまさなければ聞こえないほどのボリュームで、ジャスが微かに流れていた。


 奈央がチラリと一条の横顔を盗み見ると、ハンドルを握ったまま行き先を真っ直ぐ見据えているだけで、何を考えているのか一切窺い知ることはできなかった。

「あの、一体どこへ……」

「まぁ、黙ってついてくればわかる」

 それだけ言うと再び沈黙に戻ってしまった。


 一般道を抜け、高速道路をスムーズに走り出すと、オレンジ色の照明灯が規則的に奈央の視界を流れていく。

(どこに行くのか全然わからないけど、一条さんと一緒にいることがこんなにも嬉しいなんて……)

 生田のことを思い出すと気持ちが萎える。だから、今は何も考えずにいようと思うと、不思議と気分が高揚してくるのを感じた。それは、まるでプレゼントを開ける直前のような胸の高鳴りに似ていた。
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