恋のレシピの作り方
「私もです……一条さん」



「え……?」


 まるで信じられないものでも見たかのように、目を見開いたまの一条の顔に奈央は思わず頬を緩めた。


 お互いの視線が重なり合って、全ての時間が二人の間で停滞しているようだった。
 瞠目していた一条がぎこちなく口を開いた。


「お、お前……気がついて……?」



「はい、でも一条さんが本音をもっと聞いていたかったので……まだ寝てるフリしてました。すみません」



 悪びれた様子もなく奈央がにっこり笑うと、一条の顔がみるみるうちに赤面して、身を弾くように奈央から視線を外した。



「ば、馬鹿! 気がついてるなら言えよッ」



「どうしてですか? 一条さんの本音を聞けるチャンスだと思って……今のは本心だと思っていいんですよね?」



 とうとう一条は観念して奈央に向き直った。そして、身を乗り出すと奈央の手をベッドに縫い付けながら指を絡めた。



「お前、生意気だぞ……二度と俺にそんな口きけないようにしてやる」



「あ……一条さ―――んッ」

 押し付けるような口づけが落とされる。その想いの繋がった口づけは、今までのどんなキスよりも濃厚で熱かった。

 一条の今まで胸の内に秘めていた想いが堰を切ったように流れ込んでくる。それを全て受け止めようと奈央は必死に応えた。


 ―――好きだ。好きだ。好きだ。


 窒息しそうな情熱を含んだ口づけに奈央は徐々に陶然となっていった。けれど、うっすら開けた視界にここが病院であることに気づかされて、現実に引き戻される。


「一条さん、ここ……病室―――」



 奈央は軽く抗って見せたがそんな抵抗も愛嬌のうちに過ぎず、お互いを貪るように再び求めた。


「くそ、こんな場所じゃなきゃ、とっくにお前のこと抱いてるのに」


「一条さん、私はもう……一条さんのものです。だから逃げも隠れもしません」


「……ああ」

 再びお互いに唇を重ね合わせ、熱が交差する。奈央の髪の毛をかき分けて一条の大きな手が頭を支え、奈央は離れないように腕をその首に回した。何度も何度も交わすキスの味は甘く、身を蕩けさせるには充分だった―――。


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