恋のレシピの作り方
「ヴェルテはもう終わりだろうな……」
ぼそりと一条が呟くと、奈央の頭に麗華の姿が浮かんだ。
清家と結婚すると言っていたが、不正を働いたレストランに好き好んで訪れる客はいないだろう。麗華の辿る道はけして、穏やかなものではなさそうだ。
「レシピを盗んで同じものを作ったとしても……やっぱり全然違うものだと思います。だって、一条さんの魂がこめられてないもの。たとえ盗作されたとしても、一条さんの料理は一条さんのものです。でも、私……なんとなく清家さんの気持ちわかります」
「え……?」
「清家さんも、きっと一条さんに憧れていたんだと思います。そして一緒に肩を並べたかった……結果的には歪んだ形になってしまいましたけど……でも、私もいつか一条さんと同じくらい実力のあるシェフになりたいって思ってます。でも、安心してください、私は正々堂々戦いますから。一条さん、覚悟してくださいね」
「な……」
そう言って奈央はなんの屈託もなく笑った。
「ぷっ……それは頼もしいですね、司」
突然の宣戦布告を受けた一条は、面食らって何も言えなくなると、それを横目で見ていた羽村がついに堪えきれなくなって吹き出した。
「な、なに笑ってんだ」
「司、どうやら私の役目は終わったようですね。春日さん、これを」
羽村が胸ポケットからなにか取り出し、それを奈央の手のひらにそっと乗せた。
「これは……?」
渡されたものに目を落とすと、奈央は目を瞠った。
それは、羽村が普段身につけていた役職のあるシェフを意味する黒スカーフだった。
「今度からスー・シェフはあなたです。あなたのことになると何も手が付けられなくなってしまうような未熟なシェフ・ド・キュイジーヌを支えてあげてください、私は本業が忙しくなりそうなので……では」
羽村はにこりと笑って一礼すると踵を返した。
「羽村さん……」
奈央の呼び止めに足を止めると、羽村は肩ごしに振り返って言った。
「あなたなら、きっとうまくやれます。私はしばらく遠くから応援させていただきますから、よろしくお願いしますね」
羽村はそう言ってもう一度軽く頭を下げると、休憩室を後にした。
ぼそりと一条が呟くと、奈央の頭に麗華の姿が浮かんだ。
清家と結婚すると言っていたが、不正を働いたレストランに好き好んで訪れる客はいないだろう。麗華の辿る道はけして、穏やかなものではなさそうだ。
「レシピを盗んで同じものを作ったとしても……やっぱり全然違うものだと思います。だって、一条さんの魂がこめられてないもの。たとえ盗作されたとしても、一条さんの料理は一条さんのものです。でも、私……なんとなく清家さんの気持ちわかります」
「え……?」
「清家さんも、きっと一条さんに憧れていたんだと思います。そして一緒に肩を並べたかった……結果的には歪んだ形になってしまいましたけど……でも、私もいつか一条さんと同じくらい実力のあるシェフになりたいって思ってます。でも、安心してください、私は正々堂々戦いますから。一条さん、覚悟してくださいね」
「な……」
そう言って奈央はなんの屈託もなく笑った。
「ぷっ……それは頼もしいですね、司」
突然の宣戦布告を受けた一条は、面食らって何も言えなくなると、それを横目で見ていた羽村がついに堪えきれなくなって吹き出した。
「な、なに笑ってんだ」
「司、どうやら私の役目は終わったようですね。春日さん、これを」
羽村が胸ポケットからなにか取り出し、それを奈央の手のひらにそっと乗せた。
「これは……?」
渡されたものに目を落とすと、奈央は目を瞠った。
それは、羽村が普段身につけていた役職のあるシェフを意味する黒スカーフだった。
「今度からスー・シェフはあなたです。あなたのことになると何も手が付けられなくなってしまうような未熟なシェフ・ド・キュイジーヌを支えてあげてください、私は本業が忙しくなりそうなので……では」
羽村はにこりと笑って一礼すると踵を返した。
「羽村さん……」
奈央の呼び止めに足を止めると、羽村は肩ごしに振り返って言った。
「あなたなら、きっとうまくやれます。私はしばらく遠くから応援させていただきますから、よろしくお願いしますね」
羽村はそう言ってもう一度軽く頭を下げると、休憩室を後にした。