恋のレシピの作り方
「一条さん!」

 奈央は厨房を出ていこうとする一条を呼び止めた。

「なんだ?」

「あの、さっきはすみませんでした……私、余計な事を――」

「余計なことだとは言わない、けど、お前が答えを言った時点で、あいつは負けを下される事になる」

「……」

「ここの厨房にはお前よりも、経歴も浅くて、年下のやつが多い」

「はい」

「アルページュに入ったばかりだと気兼ねしないで、そいつらをいい方向へ導いてくれよ」


 一条はシェフスカーフを緩めながらふっと笑った。

 奈央はその時、改めて一条の存在の意味を大きく感じた―――。
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