指
指
「強引な人もキライじゃないの。」
もう4杯目のモヒートは、飲み干してしまえばただの氷とミント。
さっきから見惚れてる正面で躍る指先は、飛沫を上げてグラスを洗ってる。
「どんな人が好きなの?」って彼の何気ない質問に、調子に乗ってつらつらと目の前のひとを語った。
彼はバーを経営し、シェイカーも振っていた。
「一人が楽なんだ。」って従業員は雇わないし、彼女の匂いもさせなかった。
頼んでもいないのにテキーラ出してきたり、たまにイタズラな人。
そして、好きになって。
通って、一人で。
「あとは?」
ふと、視線を手元から私に映す。
水の音と、彼の低音が酔ったアタマをゆらゆら揺らす。
うっとりしてしまった事を誤魔化そうと足を組み替えた。
「指のキレイな人が好き。」
貴方みたいにね。
最後の言葉は聞き取れた?
囁き声程度に音量を落とした、小さな小さな告白。
きゅ。
水道を止める音がすれば、もう閉店時間。
「行くわ。」
言って、背の高いスツールから身体を下した。
「うん、ありがと。」
今日も、幸せだった。
バランスの完璧な手。
長くて、関節の緩く出た指。
指先は官能を語る。
お酒を作るあの手を眺めているだけで、身体が充分に熱くなった。
「じゃあね。」
可愛い笑顔を作れたかしら。
振り返って笑いかければ、木で出来た重厚なドアをゆっくりと引っぱった。
パタン。
目の前には、穴が開く程眺めた手。
背後に佇む彼の気配に、毛穴がぴくりと戦慄いた。
「強引で、手がキレイな、年上が好き?」
声が出なかった。
ドアを押えていない方の彼の手が、ゆっくりと耳朶を引っ張るから。
「俺は、ね。」
囁く声は、背中をなぞり上げるあの低い声。
「従順で、足がキレイで、可愛い年下が好き。」
耳朶を摘んでいた手は、見せつける様にゆっくりとクチを塞ぐ。
ドアを押えていた手は「カチリ」と施錠し、そのままVネックの胸元へじりじりと侵入を始めた。
「んっ、」
あの指が、
あの手が。
信じられない、私の身体を駆け巡る。
唇を覆った手が、ゆっくりと私の顔を傾けて剥き出しの首筋をさらけ出せば、
彼の唇が、肌を持ち上げる様にキスを落とした。
「ああ、その前に、」
下着はとっくにずらされていると言うのに、
「キスしよう。」
呑気にそんな事を言って、
彼は、笑った。