兄妹の罪
「…由梨…後悔してないか?」
やっと開いたおにぃちゃんの口から出た声は、ひどく悲しく、そしてひどく寂しそうだった。
「………分からない…」
今のわたしは、何をすべきなんだろう。
ママはわたしに暴力を振るい、虐待という罪を犯した。
それ自体は、許されない罪だ。
それだけを考えれば、わたしとおにぃちゃんは『いきなりナイフをもったママともみ合い、逆に刺してしまった』
みたいな、いわゆる“正当防衛”になるだろう。
そうなれば、いくら勢いで人を殺しても罪には問われない。
とすると、非があるのは間違いなくママの方だろう。
しかし、わたしの犯した罪は違う。
もっと辛くて、黒い。
わたしは、意図的にママを殺したのだ。
“正当防衛”と、“殺人”
…果たして、どちらの方が黒いのだろうか?
今のわたしには、その違いは分からないままだった――。