夢の外へ
千景の言うことは間違っていない。

本当のことなんだから。

お互いのことは干渉しない。

でも、胸が痛い。

「桃か?」

「へっ?」

千景の言った意味がわからなくて、思わずマヌケな声が出た。

「ボディーソープ」

今度は、香りの話か。

「ええ、桃よ」

私は答えた。

使っている理由は、ただ単に私の大好物が桃だから。

「いい香りだな」

「――ッ…!?」

千景の行動に一瞬目を疑った。

躰――と言うよりも泡に顔を近づけたのだ。

「――千、景…?」

何やってるの?

千景の行動に、心臓が早鐘を打つ。

ドキドキ…

自分の心臓の音をはっきり聞いたのは、今日が初めてだと思う。

千景はどう言うつもりで、何を思ってやってるの?
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