夢の外へ
千景とキスしたからって、何気にしてるの?

彼は、そんなつもりでキスした訳じゃない。

遊びとか、からかいとか。

彼はそんなつもりで私にキスしてきたのかも知れない。

そうだよ。

なのに私、何気にしてるんだろ。

千景からして見れば、そんなものは気まぐれにしか過ぎないのに。

そうだ、気まぐれだ。

彼は気まぐれで、私とキスをしたんだ。

でなきゃ…。

でなきゃ…何?

「――バカみたい…。

私、そんなの気にしないんだから」

自分でそう言い聞かせた後、床から立ちあがった。

頭から熱いシャワーを浴びる。

躰を包んでいた泡が流れ落ちる。

バスルームの中にこもるのは、桃のボディーソープの香り。

そして、行き場のない私の気持ちだった。
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