君をいただくなんてできない
「ん?僕はただの散歩。狼やからね」
……。
深い森の奥に狼と二人きり。危ないなんてもんじゃないわ。いつ食べられてもおかしくない状況なんだから。
そんなあたしの心境を汲み取ったのか、彼はにっこり笑ってあたしの肩をぽんと叩いた。
「だーいじょうぶやって!君みたいな可愛い子は食さないって決めとるから」
どことなく偽りのにおいがする笑顔。きっとこの人、嘘つくのが得意なんだ。
「……そんなの信じられないです」
「第一食べようと思ったら最初から人間の姿になんかならへんでガブッと食いついとるって。これ、結構貴重な格好なんやからね」
言い包められるも、言い返す言葉が見つからない。とりあえず、まだ命の危険はないみたい。あくまでまだ、だけど。