君と私のsubtext
「ちぃ」



かすかに捕まれている手に、力を込める。



「世話になった先輩に、礼もできないの?」
「――」





文字通り、絶句させられた。





何それ何それ何それ。



口をパクパクさせる私を満足そうに見下ろし、あいつは歩き出す。


引きずられるように私も進まされて、やっと口を開く。



「い、言ったでしょ、お礼っ」


「お礼の一言だけ?俺は高校の生徒会長みたいに優しくないから、それくらいじゃ満足しないんだけど?」




昔のことを引き合いに出すとか、どこまで嫌な男なんだこいつはっ。


ていうか。





「さっきからずっと呼んでるけど、ちぃって呼ばないでよ。誤解されたら困る」


「ふうん。雨の中運んであげた先輩にそういう態度?佐伯さんは」


「~~」





むかつくっ。



たまらず歯を食いしばれば、先を行く男は楽しそうに笑って見せる。


痛い目に合わせてやりたいとか、子供みたいなことを考えてしまうくらいに腹がたつ。

怒りを発散するように息を吐けば、本日の空は珍しく梅雨らしくない晴れ模様なのに気づく。



天気までこの男の味方とか。頭にくるっ。
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