夏虫
第一章 key
あたしは、何の気なしに弁当を手に教室を出た。新高校2年生とはいえ、勝手知ったる校舎だから、行きたい所へ脚が連れていってくれるから。


そのうえ、あたしはちょっと便利なモノを先輩から受け継いでいた。

あたしは蒼井恵里香。あたしの通う高校は第1から第4校舎まである。校長室、職員室、クラスの教室、それに屋上を除けば、マスターキーで他の部屋は開けられる。

鍵は一応、それぞれドアで違うがマスターキーがあればなんてことない。ちなみにクラスの教室は貴重品を入れた生徒のロッカーがあるからマスターキーでは開かない。それぞれドアの鍵を使わないと開かない。

 とある理由で私はマスターキーを持っていたのだ。クラスの教室や校長室、職員室は開けられなくても構わない。


むしろそんな開けられる鍵を持っていたら、何かあったら疑われる。しかし屋上の鍵は同じ先輩から受け継いでいた。

早い話が、サボり常習犯の先輩が卒業するので、可愛がっていた後輩のあたしにくれたのである。


今まで使ったのは昼休みにひとりで弁当を食べたときくらいだ。そして今日も同様であった。

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