夏虫
裏門の近くに自転車置き場があり、自転車通学の生徒がたくさん歩いていた。

あたしは地下鉄で通ってるから、万年運動不足の典型。朝比奈も地下鉄つかってるはず。子犬を持って帰った時は家族が誰か車出してたみたいで、車来てた。


 ―――どんっ。

「いたっ」
思わず誰かにぶつかられて声をあげた。
 

「すいませんっ」
 4人組の男子生徒のひとりに謝られた。大方、話に夢中で私にぶつかったんだろう。

 「私も考え事してたから、気にしないで」笑顔で返す。社交辞令用の最高水準の笑顔。もしかしてまた、どっかで会うかもしれないし。案外世間は狭いものなんだから。


小さく頭をさげて私は歩き出す。よく見もしなかったが、知らない顔だった。多分、見た感じ制服に着られてる感じだから1年だ。


あたしは裏門を通り抜け、公園を目指した。



 










公園のブランコに腰かけた。なかなか来ないじゃん。



ブランコを久々に漕いでみようかな。本でも持ってこればよかったのかも。あー、それより昨日買った雑誌のがいいかな。

あたしは人通りの少ない公園だし、と鞄を隅に置いてブランコを漕ぎだした。
風が気持ちいい。


昔、ブランコをいかに高く漕げるか競争して、ブランコから落ちたっけ。あの時は何針か縫ったのよね。



「蒼井ぃー」
 

朝比奈の声がした方向に首を回した。姿を確認すると漕ぐのをやめた。朝比奈が歩いてきたぐらいにブランコから飛び降りた。


「もうっ、遅いって」
あたしは朝比奈に文句を言って、彼に後ろを向いて鞄を肩にかけた。


「ごめん。」
朝比奈のすまなそうな声に振り返る。


「そんなに怒ってないよ。ちょっと待っただけだもん」
あたしは朝比奈に笑いかけた。朝比奈は笑ってもう一度謝る。

 
「じゃあ、帰ろ」と声をかけ、朝比奈より先に公園を出ようとした。


突然左手を掴まれた。ぐいっと引き寄せられた。心臓が踊り出す。早いステップで頬の赤みが増していく。今まで装っていた平静さが剥がれ落ちる。


「蒼井」
 
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