夏虫
この教室はもともと図書室だった。しかし、図書館が敷地の南に建てられたため、用済みとなった。

しかも、寄付金や本の寄付などで蔵書が増えたため、図書室はそのままの状態で残された。


同じ階には地学室、地学準備室、地理学専攻室、トイレ、標本展示室がある。この学校では地学選択者が少ないのでカリキュラム上は選択不可能である。

地学は人気がないのと偶然にも地学を教える教師がいないのも大きな理由だった。

特に多くの女子にとって地図を眺めることは退屈と同義語だ。地学を選択したい生徒がいた年は、補習というかたちをとる。

というわけで、生徒は寄り付かない場所なのだ。廊下で繋がった別棟にはまだ生徒が授業で使うこともあるが。

どちらにせよ、第二学年から選択科目が始まるので、希望者がいない今年は生徒も教師も寄り付かないのだ。


 あたしのいつもの隠れ場所は一番隅の本棚と壁に囲まれたところだ。しかも例の既に卒業した先輩とその仲間たちは、どこからかソファを持ってきて置いて使っていた。


窓が少し離れたとこにあるから、暗くはない。まさに隠れるのには絶好の場所だ。
 

「よく、こんなとこ知ってるのな」
感心したような呆れたような口調だ。


「まあね。見つかると惜しい場所のひとつなので、他のコには秘密なんだけど」と小声で答えた。

言い終えるや否や、遠くの方で誰かを呼ぶ声がした。探しているみたいだ。

「ごめん。なんか告白断ったらしつこくて、逃げたら追っかけてきた。俺、しつこいのと真剣なのはダメなんだ」


彼の声や表情にはその告白してきたコにはまったく関心ないと明示していた。

「今年から同じクラスの朝比奈くんだよね?」
あたしはソファに座りながら確認した。




そして次の瞬間、彼の口からとんでもない事実が飛び出したのだった。
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