夏虫
「一応、ファンクラブの名称は『SA2K』っていうんだけど、派手な活動ないみたいだし、平気じゃない?」

朝比奈はのんびりと言った。あたしは相変わらず混乱したままで、頭がくらくらしている。


「人数は30人くらいいるって聞いたから、単純計算で1クラスに少なくても3人クラブ員がいるんじゃないの。そう考えたら、少ないから大丈夫だろ」


この学年の生徒数は322。そのうち男が164で、女が158。1クラス40人として約半数が男だから20人。

つまり、学年の男の2割弱が加盟してるってこと?


「くらくらしてくる」
あたしは頭を抱えて、膝に額をつけるように丸まった。


―――キーンコーンカーン……
「ヤバいっ、授業が始まる予鈴じゃん」


あたしは慌てて立ち上がった。さすがに学年上がって早々、サボりは目立つ。


一歩踏み出そうとした途端、腰の辺りに後ろから腕が伸びてきて、尻餅をつくかと覚悟した。


「…、あれ?」

「ね、いっしょにサボろ」と左耳に囁かれる。熱くて、くすぐられるような息を吹きかけられる。


「なっ、…っにすんのっ、…んっ」

耳朶を甘く噛みされた。身体が熱い。不良はやっぱりチャラいのかな。


あたしは朝比奈は膝に座らされ、逃げようともがいても所詮力にはかなわない。逃げようとすると、朝比奈は首筋にキスをし始めた。


「朝比奈くん、やめてっててば。ぁんっ、わたっ、…っし彼女に恨まれちゃう」

朝比奈は無視して、あたしのの首筋を上に下に移動して、キスをしていく。

脈が速くなって、頭がふわふわして、思考が停止してく。ヤバい、止まらない。

「そんなのいない」
あたしの理性の欠片はその言葉を聞いて、抵抗するのをやめていった。

ちょっと自分、単純過ぎるなぁ、と思った。あたしの身体が抵抗するのをやめると、朝比奈は膝をゆっくり開き、あたしを脚の間に座り直させた。


「こっちのが安定感あるだろ」
その呟きさえ、首筋にあたるからくすぐったい。

彼は落ち着いたあたしを黙って抱きしめる。朝比奈は体勢を変えずに膝をたてて、ソファの上に足をのせた。

暖かな午後の光がカーテン越しにふんわり感じていた。
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