夏虫
気持ちよくて、ちょっと黙りこんで朝比奈に身体をすっかり預けた。朝比奈は私の右肩に顔を埋めたまま聞いた。

さわさわしてこころが緩む。
「蒼井、なんで大人しくなったの」


あたしは自分でも確信はできないと前置きして、説明しはじめた。

朝比奈に安心感みたいな雰囲気を感じるから、暖かくて眠たいから朝比奈くんはちょうどいいベッドかな、と。

「何だよそれ。褒められてんのか、けなされてんのかわからん」

嬉しいような、不満があるような口調で、可笑しくて、あたしはちいさく笑った。


「あと、あたしって毎日この時間は昼寝してるからかも…普段こんなのじゃないんだけどね。多分、皆からは真面目で男の影のないひとだって思われてる気がする。」

そう、あたしは普段は男に対して冷たくもしないけど、優しいわけじゃない。

どちらかと言うと、 興味がわかないだけだから、積極的に近づかない。それに、女同士のいざこざに巻き込まれたくないもん。

「そうだよね、蒼井って、浮いた噂聞いたことない」

あたしは髪を弄る朝比奈の指に安堵を覚えた。お気に入りのヘアミストを付けてきてよかったなとぼんやり思う。


「朝比奈くんも浮いた噂っていうより、不良で有名じゃない。あと、告白した女のコが玉砕する数の更新速度最速ってところもね、すごいよね。」


「まーね、それは否定できないけど。…、だって皆、外側しか見てないし」

朝比奈の声がかすかに寂しさをにじませていた気がした。



ーー― ぐぅ、きゅるるる…。
「あははははっ、ははははははっ……。」
朝比奈の笑い声が軽やかに響いた。

「もうっ、そんなに笑わなくてもいいでしょっ、ばかっ」

声を出さずに笑い声を抑えようとする朝比奈につられ、あたしも笑いだした。すっかり眠気も飛んだ。



「弁当食べないのかよ?」
その一言であたしのサボりは決定した。
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