夏虫
「何で怖くない?普通にしてる優等生の蒼井は俺のこと避けないわけ?」

何がどうなって朝比奈とあたしが私の弁当をつつきあってるのか。しかし、今日の弁当を豪華バージョンにしといてよかった。


「朝比奈くんてさー、子犬飼ってるでしょ。」
あたしは卵焼きを箸で取った。

これ、慶吾曰くいつも適当につくってるらしいけど、友達には好評なんだよね。

「これ、食べる?私の友達に好評のテキトー卵焼き」
一瞬呆れた表情されたような気もしたけど、とりあえず、彼が口を開けたから卵焼きを突っ込んだ。

「…、あ、ホント。旨いねコレ。てゆーか、何故質問に答えないの?」


「その子犬を学校の帰り道に拾って帰るとけ、たまたま見たの。あのコ、学校で誰かこっそり飼ってて、センセにバレて保健所行きになってたでしょう。」


朝比奈を見るとぽかーんとしている。しょうが焼きの豚肉を箸でつかんだままだ。

誰にも知られてなかったと本人が思っていたのが、丸分かり。


「マジかよ。コソコソあいつをもらって帰ったのに」
朝比奈は頭を抱えた。髪が日の光に照らされ、きらきらしていた。


「あのコ、高園に許可もらって持って帰ったんでしょ?」

朝比奈は顔を上げた。
「そこまで見てた?」

 あたしはお茶を飲んでから答えた。
「ううん、あいつと夕飯の時に後から聞いた。実は高園は私の年の離れた従兄なの。」


高園慶吾はあたしの従兄だが、周りに公表すると後が面倒になるのが分かりきってる程の美形の若い教師。

絶対に嫉妬の的になるか、告白の手引きなんか頼まれる役になるのがオチ。

公表は絶対に私の理想の平和な生活を壊すものになる、と会う度に言っている。

それ なのに、ふらぁっと慶吾はたまに夕飯を私の家に食べに来る。前にクラスメートにバレそうになった時は冷や汗ものだった。

思い出しても恐ろしい。平穏な生活が音もなく崩れること間違いない。
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