キミが望むのなら
「あっ、そういえば今日から新しいバイトの人が入るんでしょ?」
昨日、美智花さんから聞いていた。
「あっ、そうなんだ……。それでさ、そいつ……桃香?」
悠君が何か言っているけど、あたしの耳にはもうほとんど聞こえてなかった。
ただ目の前にいる人物に、嫌なくらい頭がガンガンと鳴り響く音しか、今のあたしには聞こえなかった……
なんで居るの……
なんでまた、あたしの目の前に居るの……
あの時の感覚が戻ってきて、息が苦しくなる。
「桃香、行くぞ」
身動きの取れないあたしの腕を強く掴んで、引いてくれる悠君。
「ちょっと待って」
「なっ!」
「やっ!!」
とっさだった。
触れられると、怖いくらいに篤志を拒否する自分自身がいる。
「桃香に触るなっ!!どういうツラ下げてここに来たんだよ。桃香にしたこと忘れたわけじゃないよな?」
「っ……」
悠君の声は怒っているのが分かった。
でも、あたしを抱きしめる腕はいつもと同じで温かい。
それが安心する……
「……付き合ってるのか?」
弱弱しく、そう聞いてきた篤志。
「そうだけど、なに?」
「……そっか」
あたしは何も言えなくて、悠君が冷静にそう答える。