キミが望むのなら


彼は。やっぱり……いない。


彼が座っていたベンチに、あたしも座った。


「はぁ―……」


今日で何度目のため息かさえ、わからない。



「また下見てる」


「えっ……」


すぐ近くから聞こえた声に、パッと顔を上げた。


「あっ……」


「今日の夜空もなかなか綺麗だよ。昨日ほどの満月ではないけどね」


当たり前のように隣に座り、夜空を見上げる……彼。



なんでかわからないけど、彼の座った右側が熱い……



「俺ね、ここが好きなんだよね」


「え……」


突然そんなことを言ってきた彼。


「ここに来れば、何もかも忘れられるような気がしてさ」



……何もかも。



「気持ちが落ち着くんだよな」



……気持ちが落ち着く。



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