キミが望むのなら
「それより、おばあ様知りませんか?今日は千崎[せんざき]様がお見えになるはずなので、そのことでお聞きしたいことがあったんですが……」
「あぁ、確か奥の部屋で、千崎様への商品の確認をしていたはずよ」
「そうですか」
じゃあ納品のチェックは大丈夫そうだな……
「ただいまくらい言ってきたらどうです?きっと喜ばれますよ」
「そうですね。じゃあ、ちょっと行ってきます」
『ただいま』なんて言ったって、おばあ様は喜ばない。
きっと向けられる瞳も、昨日と一緒だろうし……
――スッ
ふすまの擦れる音がかすかにして、開けた扉。
「ただいま帰りました」
「……遅いじゃない。今日は千崎様がいらっしゃるのよ」
「……すみません」
ほら。
『おかえり』なんて言葉は、聞いたことがない。
それに『おかえり』なんて、聞きたくない。
俺の居場所は、ここじゃないってわかってるから……