キミが望むのなら
「羽織ってみられますか?」
「えぇ。お願いします」
おばあ様が白い箱から、上等な綺麗な着物をそっと取り出し、千崎様に羽織らせる。
「やっぱりすごくいい色ね。この前、一目で気に入ったの」
2週間前に、ここを訪れた千崎様。
その際に、この着物に一目惚れされたようで、その着物にあう帯を見立ててほしいとの要望だった。
だから、あの帯を選んだのに……
「帯はこちらにいたしました」
――ドキッ
そう言って差し出された、藍色の帯。
「あら、これも凄くいい色。それに、私が好きな雰囲気の色だわ」
……気に入っていらっしゃる。
「こちらで全てですが、よろしかったでしょうか?」
「えぇ。凄く気に入りました。やっぱり、紺野呉服店の方に見立ててもらうのが一番ね」
っ……
「ありがとう」
これは、俺に対してじゃない。
帯を選んだ……
あの着物に合う、藍色の帯を選んだ……おばあ様に言った言葉だ。