キミが望むのなら
映画に向かう途中、考え込むように下を向き歩く彼女。
このまま歩いたら危ないだろ……
チラッと彼女を見ると、本当に夜と雰囲気が違う。
「……夜とは雰囲気が違うね」
「……えっ!?」
あっ、やっとこっちを見た。
「でも下を向く癖は健在か」
そう言って笑うと、彼女は少し恥ずかしそうに頬を染めた。
「下ばっかり見てたら、こけるよ」
「あっ、うん」
「名前……」
「え……?」
「鈴木桃香っていうんだね……」
「う……ん」
化粧や服装はいつもと違っていたけど、話し方はいつもと同じで、少しホッとした。
「最近公園に来てないから、すごく久しぶりな気がする」
「あっ……ちょっと忙しくて……」
誤魔化してる……そう思った。
でも、それを深くは聞かない。
聞くほど仲がいいわけでも、別に会う約束をしてたわけでもないから……