【番外編】ルージュはキスのあとで
皆藤桐子、ここにあり!
皆藤桐子、ここにあり!
私は、椅子に座り、ふんぞり返りながら目の前の男を見た。
そうしないと年下であろう目の前の人物に負けてしまいそうに感じたからだ。
まったく、容赦ない態度と表情をもった人だ。
これはまた……接客業などは向いていないだろうなぁ……。
その男の名前は、長谷部京介。
今、話題のメイクアップアーティストだ。
と、言っても世間一般に話題なのは彼の双子の兄である神崎進のほうで、彼はもっぱら裏方として話題のメイクアップアーティストにすぎない。
映画やドラマを中心として活動していた彼だったが、神崎進のピンチヒッターとして、この前『Princesa』のモデルにメイクをすることになった。
そのことがきっかけで、うちのモデルたちがこぞって彼にメイクをお願いしたいと言い出したのだ。
確かに腕は確かだった。
神埼進とは違った切り口のメイクをするから、モデルの中でも好みが別れたが、彼には彼の味があって、なかなかいい。
それに彼の兄である神崎進との二枚看板というのも、話題にはなる。
私は、これはいける! と判断して、オファーをすることにしたのだ。
だが、彼に直接言っても断られるだろう。
なんせ、彼は裏方を好む男なのだ。
そうでなければ、とっくの昔に表舞台に出てきてもいい逸材なのだから。
だからこそ意図的に彼に直接オファーを出すことはやめて、彼の父親が社長をしている「シャイニング」にオファーを出した。
彼は、映画やドラマなどで主に仕事はしているが、シャイニングのメイクアップチームにも所属しているからだ。
時間があれば、シャイニングの店にも立つと聞いたことがある。
だが、気難しい彼に接客というのは向いていないらしい。
だからこそ、裏方の仕事をしているということらしいが、業界人の噂というのはすぐに広がる。
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